海外講習会指導の際に、はじめての道場に行くことがよくありました。自分とは違う師匠のもと、全く違うコンセプトやバックグラウンドで、長年培われてきた彼ら独自のスタイルで稽古をしていることも良くあります。
講習会参加者は、私の技を新しいものとして積極的に取り入れる人ばかりではありません。真似をしようとしたがすぐにあきらめる人、完全に拒絶する人、自分の今まで稽古してきたものとの共通点だけ見つけ他の部分は稽古しない人、いきなり自分の技を人に教え始める人などいろいろなタイプの方がいます。はじめはどのように指導していくか、かなり悩みました。
そんな折、師匠から言われた言葉を思い出しました。
「絶対に人の技や稽古の仕方を否定しないこと。その人が今まで長い時間をかけて修行してきたことを、いきなり頭ごなしに否定されたら、そりゃ気分が悪いだろ。みんな一生懸命やってきたんだから。」
今は、はじめての場所での講習会の際は、先輩から聞いたこの話をするようにしています。「私は合気道修行者は植芝盛平開祖を頂上とした、AIKIDO MOUNTAINを登る登山者だと思っています。山頂を目指して日々修行をする仲間です。いろいろな登山口からこの山に登りはじめ、今なお、登り続けています。一人の人間がすべての登山ルートを制覇することは難しく、また自分の歩いてきたルートだけが正しいわけではありません。
山頂を目指す限りどのルートも間違いではないと思います。稽古を続けていれば同じ高さまで登ってきた人たちと出会うでしょう。『僕は北から来た、南から来たから君は間違いだ。』ではないと思います。『あなたが登ってきたルートは私は知りません。良ければ教えて下さい。私が知っていることも良かったら聞いて下さい。』皆、向上心をもって山を登り続けているもの同士、励まし合って山頂を目指しましょう。この講習会が、みなさんが何かを気づくきっかけになれば、私はとてもうれしく思います。」
「自分の行動、言動を相手がどう感じるか。」指導者として私が一番気をつけていることです。